5. 学位申請と博士論文執筆(公聴会までの流れ)
前回のお話
目次
学位申請
要件
学位申請を行うためには,有力な学会で他の研究者から成果を認められていることを証明するものを付ける必要があります. 何をもって証明するのかは,大学によって異なりますが,大体,有名ジャーナルに論文〇本以上採録とかです. うちの場合,どんなに厳しい査読を踏んだ権威のある国際会議であったとしても,その他成果扱いで,本当にジャーナル以外,何も認められません. また,特許やビジネス的な活動は,学術としてはその他成果扱いとなります.
仕事をしながら研究をするにあたって,アカデミック活動以外,成果として認められないのは,ちょっと辛いところです. (当たり前といえばそうなのですが)
スケジュール
2016年5月にジャーナルからの採録通知をもらいましたので,この時点で,学位申請をいつ行うか,という相談を先生と行います. 私が所属していた大学は,9月授与と3月授与の2通りが選べますが,博士論文(D論)執筆の時間を考えて,3月授与を選択しました.
月 | 主な内容 |
---|---|
5月 | 要件達成 |
~ | (他の研究 ) |
10月 | D論構成案作成 |
11月 | 2章執筆 |
12月 | 3章執筆 |
1月 | 4章執筆,学位申請 |
2月 | 全体見直し,公聴会 |
3月 | 学位認定,製本,学位授与 |
論文執筆
書き方
これまで投稿した複数のジャーナル掲載論文や,国際会議発表内容を1つの論文として仕上げます. 論文の書き方は,先生の指導の下で,いろいろなやり方があると思いますが,私の場合は,目次を決めた後,2章から中身を先に書き始めて,その後1章と最終章を書き,最後に要旨を書くというスタイルです.
但し,D論は文書自体が長いので,学位申請に間に合わせるために,途中で要旨(A4 1枚もの)と概要(A4 2枚もの)を作りました.
楽しいこと
- 好きな言語で執筆できる
日本語を選びました.博士課程で唯一日本語が許されるときかもしれません. 言語選定理由は,私が英語苦手だったからというのもありますが,母国語で最新の研究に触れることができることは国力であると思っていますので,世の中にお知らせするときには,日本語を使っていきたいというところからです.(もちろん,研究分野について自分を認めてもらうためには,英語で書くしかないので,ジャーナルは英語で書きますが笑)
- 枚数制限がない
最終的に,約100ページくらいで抑えました. ジャーナルなどでは,枚数制限がありますので,例えば12ページ以内とか,20ページ以内とか,書けることが限られています. 他方,D論は特に制限ありません.おそらく1000ページでもしっかりかけていれば受理されます(たぶん). これまで温めていたことや,苦労話など,研究の軌跡を細かく記すことができます.
辛いこと
- 適切な言葉がない
日本語と英語は言葉や文章構造が結構違うので,これまでのジャーナル論文を日本語訳しても,非常に読みにくいものになってしまいます.また,単語も極力日本語訳しますので,日本語になじむ概念を改めて作らなければならず,苦労しました.
- 長い
辛いことは,この一言に尽きます.
論理構造をキレイに保つことについて,非常に苦労します.ある部分の言葉を修正すると,100ページにわたって論理チェックをしなければならないなど,文書全体が頭の中に入っていないと,スムーズに修正できないです.また,ジャーナル論文をマージするにあたって,論理矛盾が起こらないかとか,図表略称を統一させたりとか,細かな校正を多数行わなければならないため,単純に膨大な時間が必要となります.
先生方に読んでいただくことについても,結構な時間をかけていただくことになるため,どうしてもテンポも悪くなります.
提出
3月授与の学位審査請求申請は,1月上旬が締め切りになります. このときに,審査請求書や学位論文要旨などを提出することになります. 本来であれば,このときに学位論文が出来上がっていることが前提なのですが, まあ,無理なわけでして・・・,いったん提出した後の期限内差し替え作戦で行きました.
結局審査版を提出したのは,公聴会の10日前の2/5でした.
審査(公聴会)
博士論文を提出した後は,いくつかの審査のプロセスがあります. まずは,公聴会を行うことです.諸先生方や一般の人を招いて,博士論文の内容を1時間程度で説明します. パワーポイントスライドでいうと35枚くらいの内容です. 説明内容は,会社の偉い人向け位の非常に易しい内容にしながら,数学的な難しさを少し感じてもらえるような構成にしました.
公聴会は,2017年2月15日に大学構内で開催し,専攻科のほぼすべての先生や学生など,約30名位を前に, 研究の意義や成果などを発表し,質疑応答しました. 副査の先生からはそれほど厳しいコメントはなかったのですが,その他の先生から示唆に富んだコメントをいただくなど,刺激的でした. (それは決してネガティブなものではなく,真剣に聞いていただいたからこそでるコメントで,本当に勉強になりました.)
- 研究なんだから,実際に使えるものだけでなく,もっと理想を追い求めてはどうか
- トポロジーによって数値モデルの係数が変わるのではないか
- 本研究で取り扱う分散システムの想定モデルを説明してほしい
- 前提がいくつかあるが,それが破たんしたときに,どのような結果になるか
などなど.
公聴会を終えた後,先生方だけで教室に残って,審査を行います(私はこの時点で退場). 控室で待機していると,主査の先生が戻ってきて,「公聴会合格だよ」と通知をもらいました. この時,たまたま,大学1年生の時にお世話になった名誉教授の先生とすれ違い,約15年かかったけれども,学位をもらえたことを報告できました.
いただいたコメントを論文に反映させて,最終版を2月末までに提出します.
加えて,先生から論文を製本しておくようにと指導をもらいます.D論は国立国会図書館や所属大学の図書館に収めることになっていますが,いまの制度では,製本したものではなく,電子版を収めることが正になるようです.というわけで,本来は製本不要なのですが,今後の人生で必要となる場面が何度かあるそうで,20部ほど印刷するように,とのことでした. 書式は,博士論文の価値がわからない人にも価値を感じてもらえるようにという意味で,上製本(笑). 全部で10万円以上かかりました・・・(笑)
確かに,出来上がったものを見ると,凄そうな印象はあります.
学位認定
公聴会の結果を踏まえて,3月上旬に最終判定会議が行われます.何が判定されるのかは公開されていないのでわかりませんが,成績やらジャーナルでの評価やら,公聴会の内容やら,総合的に判断されるのだと思います.
3/8に大学事務から,正式に合格した旨の連絡をメールでもらい,同時に,学位授与式(と伝達式)の案内と出欠回答の依頼をもらいます. これも大学によると思いますが,私が所属していたところでは, 学位授与式では総代が学長から学位授与され,伝達式では,1名ずつ研究科長から授与される仕組みのようです. 伝達式は,英語でもDENTASTU-SHIKIらしいです.
私の場合,仕事もあり,さらに遠隔でもあることから,辞退し,後日受け取ることにしました.
4/5(予定)に大学に往訪し,主査の先生から正式に学位記を拝受します.
振り返り
6年間という長く険しい道のりでしたが,なんとか歩き切ることができました.
スタートを切るとき,途中で倒れたとき,起き上がるとき,ゴールを迎えるとき,など,何度となく苦しい場面はあったのですが,会社の上司・同僚,大学の諸先生,友人,いろいろな人に助けられ,それらを乗り越えられたと思っています. 研究は研究能力として重要ですが,博士課程をやりきるには,周りのフォローをいかに獲得していけるのか,というところについても重要だと実感しました.
というわけで,周りにこういった決断をしようとしている人や,躓いている人がいれば,これから,積極的に手を差し伸べていければと思います. (但し,不幸なケースも,それなりに見ましたので,やはり本人の意思や力量,外部環境にも大きくよりますので,ケースバイケースですね)
続く・・・