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博士号取得体験記

(作成中)会社で仕事をしながら博士課程に進学した体験記を公開します

3. 進学直後の過ごし方(単位の取り方)

前回の記事はこちら phd.hatenablog.jp

今回はあまり書くことがなさそうです.

博士課程の単位.

学部生や修士と同じように,専攻科が定める講義を通して規定単位を取得する必要があります. 単位数は科によって違うと思いますが,私の場合は,在学中に約30単位. 100単位以上を求められる学部時代とは大きく異なります. しかも,このうちの約半分くらいは,研究活動によって認定されるため, 実際に取らないといけない授業は,5~6個くらいしかありません.

  • サマリ
講義分類 単位数 取得時期 備考
所属講座 6 毎年2単位ずつ
所属講座以外 8 1年目前期・後期一度に
研究活動 10 3年目 (いつ認定されたか実はわからず・・)
集中講座 4 不定期 イベントなどあれば
合計  28

もしかしたら,誤差があるかもしれません..

授業

博士課程に所属する学生数が少ないため,授業といっても,ほとんどが研究室のミーティングルームで少人数で行います. 自分が所属する研究室以外の先生から,論文や本を紹介してもらいながら,それを読み進めるというものが大半です. テストはなく,レポートとディスカッションで単位が認定されます. 私の場合は,遠隔地にいましたので,大体はメール・スカイプベースで指導してもらいました. 詳しい仕組みは謎ですが,大体良い成績がもらえます.

ちなみに,所属する研究室の先生の講義をとることもできますが,他に履修生がいない限り,基本的には研究活動を通じた指導によって単位認定されます.そのため,所属講座の授業を受けたという印象がほとんどありません.

研究

詳しくは次の記事でご紹介します. 論文を執筆していれば,自然と10単位もらえます. 履修届を出した覚えががないのですが,認定されていました.

考慮したほうがよいこと

1年目に必要な単位はすべて取り切ったほうが良いです. 理由は,1年目は2年目以降に比べると,研究の方向性が定まっていないため,比較的時間がとれるためです. また,特定分野の研究に着手する前に,他の講座の授業を受けることで視野が広がるので,1年目はいろいろと興味のある授業をとってみるとよいでしょう. もちろん,授業を選ぶときは,所属する研究室の先生や諸先輩方に相談してもよいでしょう.

大学によっては,講義が2年に1回しか開催されないものもあるので,受けたいときに受けるとよいでしょう.

1年目にとったほうがよいもう一つの理由は,モチベーションです. 仕事をしながら進学,という難しい決断をしたすぐ後なので,多少の無理は精神的にカバーできます. また,この時期は,仕事上のサポートも得やすいので,業務繁忙でレポートかけず・・・みたいなことにはなりませんでした. この点も,周囲の方のサポートに御礼を申し上げたいポイントです.


さて,いよいよ研究についてですが・・・

続く

2. 博士課程進学のきっかけと手続き(大学・社内調整)

phd.hatenablog.jp

きっかけ/動機

  • 2007年に修士課程を修了して,典型的なユーザ系SIerに入社.そこで,よくあるSIerの闇を体験しながら,大学時代に追い求めたIT技術と世の中のIT技術の乖離を強く実感.新入社員なので,当然裁量もなく,素人がゆえに作り上げてしまったであろう過去の意味不明な因習に縛られた作業を日々長時間やっている状態.
  • 数年それを続けた後,そのような現状から逃げ出したい気持ちと,大学同期との経験面で差が目に見えてくる恐怖と羨望から,社内の技術に特化した部署への異動を願い出る.願いがかなうものの,やはりそこは典型的なユーザ系SIer.技術部署のレベルは推して知るべし.学生の身分だったとはいえ,専門分野の国際会議などの第一線で発表やディスカッションの経験を味わった身としては,まったく物足りず.
  • そのような入社数年の特有の不満が募る中,某グローバルIT企業から会社宛てにクローズドイベントの招待状が届く.タイトルは忘れたが,その企業の研究成果を博士が直接アピールするというイベント.あまり興味はなかったが,お付き合いということで,私が参加することに.
  • 参加者は10名程度のこじんまりとしたものだった.博士がアピールするテーマは,データベース技術や工程管理技術の応用などで,私の興味のある技術分野ではなかった.しかし,連綿と続く研究の歴史を感じさせる発表や,目を輝かせながら説明をする研究者,私からの素人質問に対する研究者独特の回答~ディスカッション~知識発見の流れを,この場で再び体験.これが,心を,たまらなく,揺すった.研究をしたいという気持ちに,再び火が付いた.

決断

  • とはいえ,所属企業では,このような研究を業務としてやっておらず,また,転職しようにも研究実績としての数年のブランクは大きなマイナスとなってうまくいかず.このとき,博士課程に進学することを初めて考える.
  • やるからには,興味のある研究分野を専攻し,突き詰めて,成果を上げることを目標に,その分野で著名な海外の大学院進学をまずはターゲットにした.しかし,現実問題として,学費のみならず,生活費についても工面が必要で,国や大学の支援制度を探すものの,年齢制限や現在の収入制限などの関係で,すべて使えず.後述するが,所属企業では,大手企業のように留学制度もなく,自力で行うしかない状態.
  • 正直,やめようかと思った.
  • 宴会の中などで,友人や会社の先輩に相談に乗ってもらった.いろいろなアドバイスをもらったが,その中で決定的だった言葉は,「これからの人生の中で,今が一番若い」だった.研究活動は,ときにタフさが要求されることは体験済だったので,それを乗り換えられる要素の1つである若さの重要性はよくわかっていたつもりだった.国の支援制度に年齢があるのはこのためだと思うのもよく理解できる.
  • これから先,熟考に熟考を重ねて研究の道を考えたり,所属企業で,留学制度を企画して規定に落とす道を考えると,モチベーションの面としても経済の面としてもよいことは想像できた.しかし,この言葉で,考える時間よりも行動する時間を増やしたほうがよい,という決断ができた.これは,振り返ると大正解だった.

  • 決断をしたものの,お金の問題は解決しない.そこで,仕事をつづけながら研究を行える可能性の高い,国内の大学院にターゲットを切り替えた.

  • 2011年の2月.運よく,これまで指導していただいた国内大学院の先生につながることができ,事情を相談.案を2つ提示される.第一案は,仕事をしながら研究ができるように,都内の有名大学の先生を紹介いただき,研究テーマを広げるもの.第二案は,遠方になるものの相談した先生に師事し,研究テーマを深めるもの.後者であれば,数日後に博士課程の2011年度最後の入試があるとのこと.とにかく,早く始めるために,後者を選んだ.

手続き

大学との調整

入試が差し迫った時期だったため,調整は最低限に.合意をとったポイントは以下2点.

入試方法

「一般入試」と「社会人特別選抜」の2つの方法があった(多分).私の場合は,先生と相談して「一般入試」で.理由は,一般入試の場合,これまでの研究実績が考慮されるため,社会人特別選抜で必要な書類(作文含む)を準備しなくてよいことが決め手となった.

単位取得(通学)

博士課程も,修了要件には,一応単位取得がある.大半は,研究の過程で認定されているのだけれども,数単位については,他の先生の講座に伺って指導を受ける必要がある.というわけで,よさそうな先生を紹介してもらって,個別調整.後述するが,基本的には教科書を読んで,レポートをまとめて,ディスカッションを行うというスタイルで認定いただくことで着地.事務側としても,問題ないとのこと.

企業との調整

要求

社内に留学制度はないことを知っていたが,それでも交渉は行った.要求事項は2つ.

  1. 仕事と関連のある研究を行う場合,業務の一部として大学での研究活動を認めること.
  2. それに係る費用の全額,または,一部を負担すること.

回答

会社(人事・経営部門)からの回答は,以下

  1. 個人に利に資する活動のため,会社と関連のある研究であったとしても認定しない.
  2. 費用は負担しない.

良かった点

  • 分ってはいたけれども,改めてこの事実を確認できたことはよかった.ちなみに,所属部門のラインの上司からは相当後押しをしてもらえた.お金と時間の面は解決しなかったが,活動そのものへの理解をもらえたのは精神の面から相当励みになった.
  • その上司からは,仕事中に研究を行ってもよいといわれていたが,さすがに仕事をほったらかして研究をするわけにはいかないので,他の同僚と同じように業務時間中はただ業務に専念することにした.

    悪かった点

  • あわよくば,研究を進められるような社内業務を企画して,私が行う研究成果が,大学としても企業としても認められるような環境を作りたいと思い,それぞれの場で調整を続けた.これは,のちに悪い結果となる.二兎追うものは一兎も得ず,状態に・・・.
  • もしかすると,ここで頑張って制度化を粘っていたら,もう少し学業に集中する時間を作れて,結果として,早く修了できたかもしれない.

入試

前日まで

前日までじゃなかったかもしれませんが,以下の書類を準備. * 願書 * 履歴書(職務経歴書含む) * 過去の研究実績(と論文の写し) * 修士課程までの成績表,終了証明書 * 研究計画書 ← これが厄介 * 研究計画書の発表スライド

研究計画書とは,博士課程進学後,何のテーマでどのような進め方をするか,といったことを1~2枚程度作文するもの.アカデミックライティングの能力を測るためのものだと思われる. ここは,仕事をしながら,課題を感じている項目を書き留めていたノートから,研究テーマにできそうなものを選んで,作文. 詳細なテーマは伏せますが,「並列計算フレームワークにおける通信プロトコルの設計」.当時,イケイケだったHadoopの通信周りがあまりにも貧弱で,業務に使えなったため,これを解決することを考えました.(もちろんHadoopは例であって,研究としては一般化します.) この研究計画書作成にあたって,先行研究も十分に調査できていなく,主観的に記述することが精いっぱいでした. ただ,後日先生に聞いてみたところ,研究計画書はただの計画書なので,進学後に勉強をしたところ,当初の計画がいまいちなのが判明したなどの理由で,研究の進め方からテーマそのものまで柔軟に変更可能(というか,研究とはそういうもの)とのことで,あまり中身はどうでもよかったらしいです.

  • 入試前に,一応会社の役員に事情を説明.正式に休みを取得.

当日

  • 入試は,入試日の指定された時間に,試験会場に行って,入学審査を行う複数の先生たちの前で,研究計画を発表するもの. 発表会場は,10名掛けくらいの普通の会議室で,専攻科の教授陣が集まります. 15分くらいで,研究計画(主に研究に取り組む意義)について説明し,それに対して,先生方が質問されます. 内容は覚えていませんが,厄介な質問は,コストの問題に帰着させて,企業人独特の苦悩を共有して乗り切りました(笑). 一番心配されたのは,仕事と学業を両立させること.専攻科長からは,業務繁忙期に研究が進まなくなる事例をたくさん見てきたとのことで,相当心配されました.このとき,私の中であった,社会人だから修了条件や研究環境がちょっと甘くなるとかそういう期待は消えて,履修期間が長くなるかもしれないことを覚悟した瞬間でした.

  • 入試は,「これからの研究生活頑張って」,と言われて終わりました.ということで,無事合格なのかな?という怪しい気持ちで帰路に立ちます.

  • この日,ここまで相談に乗ってもらった先生に,お土産(駅とかで売ってるもの)を持って行ったのですが,ちょっとマズそうな顔をされていました.そりゃそうですよね.これから入試を受ける人からモノをもらうとかは,あんまり望ましくないですね(笑).

事後

  • 約1週間後の合格発表日に,受験番号の掲示がなされて,正式に合格を知ります.

合格発表後

  • 事務手続きとして,入学金と初年度(前期)の学費を支払います,引き落としではなく,敢えて,手数料の高い請求書に基づく支払いを選択しています.この理由は,会社との交渉を継続しながら,立替払いとして認めてもらえないかという期待感からですね.
  • 入学式やオリエンテーションの案内をもらいましたが,遠方なので欠席.必要な書類(学生証やシラバス)などは,後日郵送されてきました.

というわけで,進学後の話に続く・・・

1.はじめに

想定読者

  • 社会人の方で,仕事をつづけながら博士号取得(課程博士)を目指そうと検討している方
  • または,周囲に,博士課程進学者や博士号取得を目指そうとしている人がいて,その人が置かれている環境や心情を理解をしたい方

記事の狙い

  • 博士課程に進学するかどうか意思決定するときの判断材料の提供
  • 博士課程在籍者ないし博士号取得者に対する支援・処遇等の検討材料の提供

私自身,博士課程に進学するかどうか悩んだり,進学後,どのように周囲にサポートを得ていけばよいか悩んだりしたので, もし同じようにお困りの方がいたら,その人の助けになればと思い,これまでの取組みを公開することにしました,

エグゼクティブサマリ(要約)

  • 企業で仕事を行いながら大学の博士課程に進学し,博士号を取得することは可能だが,その道は過酷.
  • よって,周囲の支えがないとより一層困難に.支えて頂いたすべての皆さまに感謝.

得られたもの

  • アカデミックサイドからの研究ノウハウ(問題発見から解決までの道筋)
  • 短い時間でロジカルに論文を作成する力
  • 専門分野とその周辺の体系的な知識と説明テクニック
  • 人的ネットワーク(私の場合は僅かですが・・・)
  • 博士号と実績(論文が学術雑誌に採録されることなど)

と書きましたが,まだまだ未熟だと自覚しているところです.

失ったもの

言い換えると,投入した資源のことです.

時間

自分の余暇の時間を使うほかありません. 勤務時間中は仕事に専念していますし,休暇や時間外労働もほかの社員と同様の条件です. (よって,仕事が炎上すると,研究が止まります)

名目 時間 備考
入学手続き・入試 4日 研究計画発表,事務手続きなど
授業(主査の先生以外のもの) 20日 講義聴講・レポート作成・ディスカッション等
授業(主査の先生) 0日 実質,研究指導で単位認定
研究・実験 300日 6年間,夜間・土日は実質ずっと
発表準備 300日 同上(論文執筆時間のほうが長かった気も)
論文発表(D論除く) 15日 海外だとそれなりに長く.会社の夏休みを利用
D論(事務含む) 90日 唯々分量が多い・・・
その他 30日 査読協力,後輩指導,お付き合いなど.
合計  769日 1週間あたり23時間(土日+平日空き時間)を6年間

※1日とは8時間のことを指す

※お付き合いイベントは配慮してもらって,あまり参加しておりません.

お金

金額はおおよその値で,6年合計で計算したものです.

名目 金額  自己負担金額 備考
入学金 270,000円 270,000円 初年度のみ
授業料 3,240,000円 3,240,000円 半年ごとに27万円
書籍代 50,000円 25,000円 極力,会社で理由をつけて購入
交通費 250,000円 125,000円 大学都合によるものは研究室負担
学会会員費 120,000円 120,000円 ACM, IEICE
論文投稿料 300,000円 0円 研究室負担(自分で払ってないので,詳細不明)
実験費用 1,000,000円 400,000円 個人PCのみ自費負担.ソフト・サーバは研究室負担
論文印刷料 180,000円 180,000円 D論の製本(意外と高い),論文印刷確認用
合計  5,410,000円 4,370,000円

私の所属企業では,博士号取得に係る制度がないため,会社の金額負担はほとんどありませんでした.

目次

長くなる記事になりますので,いくつかのページに分割して記載します.

  1. はじめに(このページ)
  2. 博士課程進学のきっかけと手続き(大学・社内調整)
  3. 進学直後の過ごし方(単位の取り方)
  4. 研究の進め方と研究発表(社会人学生としての研究の苦悩)
  5. 学位申請と博士論文執筆(公聴会までの流れ)
  6. おわりに(博士号取得後のお話)

※内容は変わる可能性があります.

著者について

博士課程進学前

  • 2007年3月 修士課程修了(修士(工学))
  • 2007年4月 就職(大手企業の総合職として.エンジニアではなく)

肩書はエンジニアでしたが,やっていることは委託管理や契約事務,社内調整等が主で,ときどき,技術企画や経営層に説明に入る資料等を上司について手伝っていました.

博士課程進学後

  • 2011年4月 博士後期課程進学,このとき,28歳
  • 2017年3月 博士後期課程修了(博士(工学)), このとき,34歳
  • 博士課程の専攻分野は工学.研究分野は通信プロトコル修士と同様)

博士課程在籍中も,他の社員同様に仕事は通常通り担当していました.この辺りの両立の話は,後ほど詳しく記載します.

ご注意

  • この記事は,博士号取得を推奨したり,博士号取得者の処遇を改善したりしようとする宣伝目的の記事ではありません.実体験に基づきながら博士号取得の足どりを紹介する記事です.
  • 修士課程(博士前期課程や一貫性課程など含む)から直接博士課程に進学される方や,論文博士(乙申請)を目指す方,退職や博士号取得をミッションに与えられた業務を行う方など,博士号取得に専念できる方には参考にならないと思います.
  • 博士課程は専攻する学問や師事する先生,所属する大学によって,状況は大きく異なると思います.したがって,この記事の通りでないことも多いと思います.妄信しないようにご注意願います.

つづく・・・